倉庫

自分用倉庫を公開する感じ

双子の話

 

 

※兄弟同士での性行為の描写アリ。

※BL

 

 

 

 男は、ほの暗い廃墟の中をひたひたと歩いていた。どこか気だるげで眠たそうな歩みと動作で、タバコを取り出し火をつけた。サソリのマークが印象的な、細身の煙草だ。
 彼はエーゼル・リーガンと呼ばれた。曰く、いつの間にか呼ばれていた。恐らく本名では無いのだろうその名前を、彼はここ数年使っていた。自身に対するこだわりがエーゼルには一切無いのだ。故に彼は何だって出来た。それがエーゼル・リーガンの最も強い部分だと皆が言った。
 廃墟の奥へと進むと、エーゼルはきょろきょろと辺りを見回した。とある人物と待ち合わせをしているのだが、一向に現れる気配が無いのだ。俺は遅刻した筈なのに、まだ来てないなんて珍しい。と思いつつも、これで仕事が遅れてもアイツのせいに出来るな、と上機嫌にコンクリートの壁に寄り掛かり瞼を閉じたのだった。

 次に、エーゼルが目を覚ました時に見た光景は、10cmにも満たない程の距離にある待ち人の顔であった。エーゼルはその光景に慣れているように、あっけらかんと口を開いた。
「どこ行ってたんだよ」
「……」
「ピオン」
 白髪の男、スコーピオン・リーガンはエーゼルを両手で囲い、コンクリートの壁に閉じ込めていた。彼の息は荒く、ぎりぎりと噛みしめられた鋭い歯の隙間からは獣のような呼吸音が聞こえ、口の端からはよだれを垂らしている。
 スコーピオン・リーガン。彼もまた偽名であったが、エーゼル・リーガンとは血のつながった兄弟で、生まれたときから共に行動する双子だ。
 エーゼルは視線をずらし、スコーピオンの右手を見た。すると、いまにも爪が剥がれそうな程壁を強く掴むその手には、恐らくスコーピオンのものとは違うであろう血が乾いてこびりついていた。
「何、仕事終わらせたん」
「……」
「そ、じゃあリクのところ戻ろうぜ」
 エーゼルはスコーピオンを手で押しのけようとした。
 その時、ドン!と大きな衝撃を受けたと同時にエーゼルの世界は180度回転し、いつの間にかコンクリートの床に仰向けで寝転がっていたのだ。
「っいってーな…」
 両手をスコーピオンに束縛されていて身動きがとれない。身長では同じぐらいなものの、スコーピオンはエーゼルよりも力があった。
 そんな状況にも関わらず、エーゼルは軽くため息をつきスコーピオンの目をじっと見つめ返す。
「逃げないから手を放しなさい」
 すると、スコーピオンはその言葉に素直に従い、エーゼルの両手を解放した。
「良い子だな」
 エーゼルはよしよし、とまるで子供をあやすかのようにスコーピオンの頭を抱きかかえ、撫でた。
「たしかこの階の奥の方に、リクが寝泊りする用の部屋が一室だけ整備されてた筈だ、そこでなら相手してやってもいい」
 但し、噛むなよ。とエーゼルが念押しをすると、スコーピオンはエーゼルを抱きかかえ、小部屋へと向かっていった。

 ぼんやりとした思考の片隅で、ああ、またやってしまったのか。と気が付いた頃にはもう既にすべて終わった後だった。
 自分の隣で寝息を立てて寝る全裸の兄貴を見るのはこれで何回目だ、とスコーピオンは心底自分にあきれ返った。
 戦闘が好きだ。全身の血が沸騰しそうな程に、戦っている時は興奮してしまうのだ。そして、そのうち体が興奮に支配される。それがただ気持ちが高揚しているだけなのか、性欲なのかも判断できなくなるぐらいまで。
「いっつも申し訳ないですねえ…」
 自分が脱ぎ捨てたであろう服を拾い集めて着直す。愛用しているスーツはヨレヨレになっているし、シャツはボタンがどこかに行ってしまっていた。
 エーゼルが着ていた服も拾い集める。きっと彼は自ら脱いだのだろう。自分が着ていたものと違い一か所にまとまって落ちているだけだった。
 兄と似たため息をはあ、と吐く。こういう事になると毎回思うのだ。自分の兄はなんて凄い奴なのだろうと。
「(正気な状態で、実の弟と性行為が出来るなんてイかれてる)」
 今、もし自分が正気な状態で兄と性行為を行えと言われたら、到底無理だろう。それほどまでにエーゼルはスコーピオンにとってただの兄弟であり、信頼できるかけがえのない兄なのだ。弟を落ち着かせるために正気な状態で体を差し出す兄には畏敬の念を抱くし、自分には到底及ばない遠い人間に見えるのだった。
「兄貴、起きれるか?」
「…あー…もうちっと寝たいわ」
「じゃあ、先に報告行ってくる」
 もし起きれないようだったら迎えに行くから連絡してくれ。そう一言告げて、スコーピオンは軽くて薄いドアを出て、本部へと向かい歩き出した。
 夜も明け、日が照りつける中、凛と聳え立つビル群の間を、伸びた背筋でカツカツと音を鳴らして歩く。
 戻ったら、スーツをクリーニングに出して、シャツは新しいのをもう一着買おうか。兄の件を除けば仕事も上手くいった。今日は奮発して少し良い食事でもとろう。
 そうやってこだわることによって、気分が良くなるのならいくらでもこだわるところ、とことん兄とは違う人間だなあと思いながら、サソリのマークが書かれた細身の煙草に火をつけ、頭を掻いたのだった。

 

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キャラ設定とかはそのうちアップします。(^^^^)