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自分用倉庫を公開する感じ

気まぐれな休日

便利屋セブンズで働く人たちの日常を書いたもの。
仲良しなんだけど愛が重い話。ホモっぽいけどホモじゃない。

 

 

 

 僕、コウ・エイムズはフーリーさんがいったい何を考えてるのか、未だにわからない。
 このセブンズに入社して約一年半。僕が実戦に出るようになってからフーリーさんと二人で組むことが圧倒的に多かった。勿論、それは会社の指示と言うか、仕事全体の管理をするロボさんとスコーピオンさんが、一番実践慣れしていない僕に合わせて、一番実践慣れしているフーリーさんと組ませているのはよくわかる。もちろん、それに伴って彼がどういった人間なのかは多少理解をしていた。肉が好きだったり、野菜が嫌いだったり、煙草が好きだったり、兄弟は何人だとか、そういった個人的な話だってする程度には心を開いてくれているのだと自負している。
 わからないのは、彼の気分屋な部分だった。仕事中に突然帰ると言って帰ったり、ある日挨拶すると機嫌が悪くて無視され、かと思えばその日の午後には機嫌が良くなっていたり。そんなことがかなり長く続いた癖に、最近になってそういった類の彼のわがままが一切なくなったり。一言ハッキリ言えるのは、僕は振り回されているという事だ。
「……と、これが最近の悩みなんですよねえ」
「ふーん、それ惚気か何か?」
「部外者だからそうやって言えるんですよ、レオンさんは」
 だから、未だに二人で仕事ってなると緊張するんです。と僕が言うと、レオンさんはスマホをいじりながら、そんなに気にしないでもいいと思うけどねえ。と気楽に言った。
 僕もスマホを取り出し、連絡が来ていないか確認しようとアプリを立ち上げる。友人が少ない僕のトークの最新に並ぶのはここ、セブンズのグループチャットだ。
「あー、どうしよっかなー、悩む」
「どうしたんですか」
「んー、彼女と彼女から同じ日にお誘いがきたんだよね」
「レオンさん最悪」
 ピコン、と僕のスマホが「連絡がきたぞ」と呼ぶ。慌てて画面を確認すると、フーリーさんから一言、「どこ」と書かれたチャットが飛んできていた。
『今レオンさんと事務所にいます、休憩中です^▽^』
『そっち行く』
『あれ?今日仕事ありませんでしたよね』
『ないけど行く』
『忘れ物とかだったら探しておきますよ』
 きっと忘れ物があるわけじゃなかったのだろう。説明が面倒になったのか、それ以上の返事は来なかった。
「今からフーリーさん来ますって」
「はあ?なんで?アイツ今日休みだよね」
「さあ…」
 二人で頭にクエスチョンマークを浮かべながら、顔を合わせ、やっぱあの人は気まぐれなね。と言うレオンさんの言葉に頷いた。

 小一時間後、休憩も終わり、僕はそのまま仕事に戻った。紙書類をデータ化するだけの単調で楽な仕事をレオンさんと二人でこなす。このペースだと遅くても夕方頃には終わりそうだ。
「そういえば、フーリーくん来ないね」
「うーん……自宅から来るってだけだったら10分もかからないと思うんですけど」
「え?コウくん自宅知ってるの?」
 レオンさんは何故だかドン引きした様子で僕を見る。
「いやいやいや、なんでそんな。そりゃ何度か行ってますから知ってますよ」
「何度か行ってるの!?」
 レオンさんは更に驚いた様子でまじまじと僕を見つめる。何がそんなに驚くことなのか、僕にはわからず、つい間抜けな顔をしてしまった。
「フーリーくんと俺、大体同期なのは知ってる?」
「そんなことききましたね」
「俺さ、結構入ってすぐフーリーくんと仲良くしようと凄い頑張ったんだけど、結局俺もあの人のこと肉が好きで野菜が嫌いなことぐらいしかわからなかったんだよね」
「その情報は何故かみんな知ってますよね」
 レオンさんが言うには、フーリーさんはあまり人と関わるのが得意じゃない方らしく、辞めて行った人も含めて彼が家に招くほど仲良くなった人は居ないらしい。
 そもそも僕がフーリーさんと仲が良いかと言われるとわからないのだが。
「ポルコとフーリーくんが話してるのはよく見るけど、あの二人はお互いにあんまり興味ないからね、家は知らないんじゃないかな」
「そういうもんなんですか」
「そういうもんなんでしょ」
 突然ガチャ、とドアが開きフーリーさんが低い声で怠そうにおっす。と言って入ってきた。レオンさんは、噂をすればなんとやらだね。と言ってパソコンの画面を見つめ直した。
「随分遅かったですね、どうしたんですか?」
「これ」
 手に持っていた紙袋を胸に押し付けられ、思わず受け取る。
「???これなんですか?」
「やる」
 色々腑に落ちないまま紙袋を覗くと、中にはラッピングもされていない暖かそうなコートが入っていた。
「貰っていいんですか?」
「こないだ仕事で外行った時、コート無いって言ってたろ」
 それにしても唐突だなあ、と思ったが、いつもの事か。と思い直して、ありがとうございます!と素直にそれを受け取った。
「一年ぐらい経ったなー、って思ったんだよ」
「ああ、僕が入社してから?」
「まあ、そんな感じ」
 なんだかんだ言って、この人も優しいんだよなあ、と僕は心が温かくなって、悩んでいたことも割とどうでも良くなった。
 こんなに同僚に優しいフーリーさんのことだ。時間はかかってもみんなに心を開くことはあるんじゃないかなーと考えながら、彼に今日一緒にお夕飯どうですか?と聞くと、じゃあ仕事終わったら家に来いよ。と微笑まれたのだった。

 レオンはその光景を横目に、今日の日付と昔の依頼の日付を照らし合わせていた。
(まさかとは思ったけど、調べなきゃよかった)
 今日はフーリーとコウが初めて二人で組んで仕事に出た日付と同じ日だったのだ。
(こんなに重い奴だったとはなー)
 レオンはキャスターのついた椅子に寄り掛かり腕を頭の後ろに回す。
 歓談する二人を少し冷めた目で見ながら、これからコウにふりかかるであろう苦労を想像して苦笑いをする。
(きっとフーリーくんにとって、コウくんは初めて心を許せる友人なんだろうなあ)
 さて、そういえば彼女達にまだ返事してなかったけどどうしようか。とぼにゃり考えながらレオンは仕事に戻るのだった。