倉庫

自分用倉庫を公開する感じ

花の首輪

便利屋セブンズと言う会社で働く人たちの短編。

単体で読めます。 

 

 

 

 日が照りつける午後12時、ロボ・ラーキンズとポルコ・ピースは走っていた。
「ポルコ!お前はそのまままっすぐ走れ!僕は回り込む!挟み撃ちにするんだ!」
「了解!」
 ロボはさっきとは比べものにならない速さで石畳を蹴り、細い脚は目にもとまらぬスピードで動いていた。
 やや日陰になっていて薄暗い路地裏を駆け抜け、先ほどの大通りに出ると、正面からはポルコと高そうな宝石の首輪をした猫がこちらに向かって走ってきた。
 猫は突然正面に出てきたロボに驚き、一瞬止まった。そこをポルコが大きな動物用の網を被せて猫を捕まえた。
「捕まえた!」
「よし!じゃあ急いで事務所にもどろうか」

「ただいま!」
「リボンちゃん捕まえてきましたよ」
 チリンと心地の良い音がする鈴のついた事務所のドアを開け放つ。中に居たレオンは事務所の窓を綺麗に拭きながら「おかえり~」と顔だけこちらに向けて返事をした。
「それにしても重労働だったな」
「逃げまわるわ足は速いわ言葉は通じないわでもうへとへとですよ」
 おなかすいたー!と言いながらポルコは手に持っていた動物用のバッグを床に置き、事務所のソファへと身を投げ出した。
 動物用のバッグの中には先ほどまで逃げ回っていた、リボンちゃんと呼ばれる真っ白な長毛種の猫が大人しく丸まっていた。走りいまわって疲れたのだろう、ぷうぷうと寝息を立てて眠っている。
「確か、飼い主からリボンちゃんのご飯受け取ってましたよね」
「あー、そういやそうだったな、どこやったんだっけ」
 自分以外の者の食べ物を探す余力が無いのか、ポルコはソファに寝転がったまま微動だにしない。やれやれ、と思いながらロボは戸棚を開けた。
「わー!リボンちゃんかわいい~!!」
 拭き掃除が終わったらしいレオンがリボンちゃんに近寄りバッグを開ける。そのままリボンちゃんを抱きかかえると、事務所の一角にある動物用の柵の中にそっと下して、起こしちゃってごめんね。と頭を撫でた。
「ロボくんもポルコも、お昼食べに行きなよ、リボンちゃんの世話とか俺がやっとくからさ」
「うおー、助かるわー」
「じゃ、お言葉に甘えて」
 ロボは自分のリュックサックを持ち上げ、さっさと食事に行こうとしたが、ポルコに、俺も一緒に行く!と手を引っ張られたので、彼の準備が終わるまで待った。
 お昼の時間から少し過ぎてしまったから、きっとどの店でも入れるだろうなあと漠然と考えながら日に照らされ熱を持った石畳を歩いた。
 ロボはその時ふと、愛用のボールペンのインクを切らしていたことを思い出した。
「すぐ終わるから、雑貨屋寄っていいですか?」
「いいよ、何買うの」
「ボールペン」
 ポルコはふーん、と興味無さげにあいまいな返事をした。

 入った雑貨屋は実用的な文房具と一緒に、少し可愛らしいアクセサリーや小物が置いてあるようなお店だった。
 ロボは一直線に目的のボールペンがあるコーナーへと歩いたが、ポルコは髪留めのコーナーをぼんやりと眺めていた。
「買い物終わりましたよ、行きましょう」
「ちょっとまって」
 ポルコはその中にあった、小さな花があしらってある可愛らしい髪留めを買って、プレゼント用に包んで貰っていた。ロボはその様子を見て、妹にでもあげるんだろうな、と納得したので。いいお兄ちゃんですね。とポルコに声をかけた。

 行きつけの定食屋に着いた二人は、ご飯を食べながら今日の仕事についてやんわりと話していた。
「それにしても、ロボは足早いよなあ」
「君とは鍛え方が違うんだよ」
 ロボは少し自慢げにして、から揚げをほおばる。心底幸せそうに食べるロボを見て、ポルコは少し嬉しくなった。
「あのさあ、ロボはおめかししたいとか思わないの」
 はあ?と眉間に皺を寄せて、ロボはポルコを見つめる。
 ロボの今の恰好は、よれたジーンズに走り易そうなスニーカー。黒いシャツにカーキ色のフード付きジャケットを羽織っていた。
「君だってたいして変わらないじゃないですか」
「俺は男だからこれでいいんだよ、ロボは女の子で可愛いんだから、もっと女の子らしい服装すればいいのに」
 ね?と言ってポルコはお味噌汁をすする。ここの店本当に美味いよなあ。と話すがロボに反応は無い。
「何赤くなってんの」
「君が馬鹿なこと言うからでしょ」
「可愛いってとこ?」
「僕に可愛いなんて言う馬鹿は君だけだよ」
 そうかなあ、とポルコは納得していないような顔をしていたが、思い出したように、確かに女子力は足りないよね。と言ったので、ロボは余計なお世話だ、という顔で白米をほおばった。
「女子力で言ったら、うちの中じゃレオンが断トツじゃないですか」
「確かに、アイツ家事とかなんでもできるし、ぶっちゃけ顔はすげえ可愛いよね」
「男ですけどね」
 すると、ポルコはなにやら鞄を漁り、さっき購入した髪留めを出してロボに手渡した。
「そう、レオンは髪が短いからこんな可愛い髪留めできないだろ。出来たとしても、男でこれ身に着けようって奴あんま居ないだろ」
「は?これは…」
「アンタの為に買ったんだよ、着けて」
 ポルコがあまりにも強く推すので、ロボはたじろぎながらも、今髪を結んでいた味気のない髪留めと、その可愛らしい髪留めを交換した。
「ん、似合ってるじゃん」
「……ありがと」
 さ、飯食って早く事務所に戻るぞ!とポルコは残りのご飯を食べ始めた。ロボは、この男には適わないなあと思いつつも無言で残りのご飯をかき込んだ。

「おかえり、二人とも」
 レオンは引き続き事務所の掃除をしながら二人も出迎えた。箒と塵取りをもって可愛らしいエプロンと三角巾をかぶるレオンは、やはり女子力が高いなあとロボは思った。
「ねえ、リボンちゃんなんだけど、この子リボンちゃんじゃないかもしれない」
「えっ!?」
「依頼書見たら、確かに白い長毛種の猫って書いてあったんだけど、首輪が全然違うんだよね」
 二人は急いでレオンにかけより、依頼書に貼られた猫の写真を覗きこむ。確かに、写っている猫は今日捕まえた猫がしている宝石のついた首輪はしていないし、よく見ると若干顔つきが違うように見えた。
「まじかよ!探し直しかあ~やだな~」
「どちらにしろ、この子も迷い猫っぽいからあとで張り紙作っておくよ」
「くっそお~…もうこのまま勢いで探そう、ポルコ」
「うっし、じゃあ行ってくる!」
 いってらっしゃい!と元気よく返事するレオンだったが、意識はロボの髪留めに行っていた。絶対ロボの趣味じゃないよなあと考えつつも、それがきっとポルコが贈ったものだと言うのには気が付いていた。きっと、あえて絶対ロボが選ばないものを選んだのだろう。ポルコは意地の悪い男だ。
「あんなわかり易い首輪つけるぐらいとられたくないなら、付き合っちゃえばいいのにね」
 ポルコは意地悪だよね~と、リボンちゃんと呼ばれた白猫に話しかける。
 白猫は、にゃあん。と嬉しそうに返事をした。