甘い戦争

創作キャラの小説です。

ほんわか日常風景。

　立ち並ぶ雑居ビルの一角。セブンズと書かれた看板を出す小さな事務所は外からでも聞こえるほどの怒声がガンガンと響き渡っていた。
「なんで俺が折角買ってきたプリン食べちゃったの！ゼルのばか！」
「お前が名前もかかねーで冷蔵庫入れとくからだ！ごめんって！」
　冷蔵庫の前で涙目になる大男、ポルコはこのプリンを昨日大人気のスイーツショップに二時間も並んで買ってきたらしい。翌日食べようと冷蔵庫にしまっておいた所、基本的に事務所に寝泊りしているエーゼルが見つけて食べてしまったということだ。それにしても190cmを超えた大男がこう地団駄を踏みながらわめかれると、どうも滑稽である。とその言い争いを外から見ていた少女、クローリクはその様子を眺めていた。
　事務所の外の階段からカンカンカンと鉄製の階段をゆっくり上がってくる音が聞こえた。外から入ってきたのは下の階から伝言があって上がってきたスコーピオンだ。
　ガチャ、と扉を開けるとスコーピオンは一瞬びっくりしたあと、この有様を横で楽しそうに聞いているクローリクに話しかけた。
「何があったの？」
「エーゼルがポルコのプリン食べちゃった」
「全く、兄貴は確認しないから。俺も昔よく自分のお菓子食べられましたよ」
　まあ、なんだかんだ律儀な人だから名前書いとけば食べないんですよね。とスコーピオンは笑いながら話した。
「それより、用があったんじゃないの？」
「ああ、なんか結構難しい依頼が来たみたいで。ロボがリクさん呼んでます」
「はいよ」
　クローリクは事務所を出て、一階にある受付へと向かっていった。
　このビルは三階建てで、一階が受付、二階が事務所、三階がクローリク、エーゼル、スコーピオンの住居スペースとなっている。
　余談だが、三階は三人の住居スペースとなっているものの、部屋は二部屋しか無く、エーゼルは二階の物置で寝泊りしている。
　スコーピオンは未だ言い争う二人の傍にあるソファに座り下から二人を眺めた。
「ポルコ、兄貴も謝ってるんだから、そろそろ許してやんなよ」
「だってよお」
「俺の所為だし、買ってきてやるからそれで許してくれ」
「…二つな」
「折角だから俺の分も買ってきてよ」
「はいはい」
　じゃあ行ってくるわ。と手をひらひらと振りながら、エーゼルは事務所から出て行った。スコーピオンはそれに手を振りかえした後、未だにしょげているポルコに「そんなに凹まないでくださいよ」と言葉を投げ返た。すると、ポルコは少し照れくさそうにぽつぽつと話し始めたのだった。
「だって、俺が食べて美味しかったらエーゼルにも教えてやろうって思ってたのに」
「そういえば君らはよくスイーツの情報交換してますよね」
「こないだ教えてもらったケーキ美味しかったから、お返しにと思ったんだよ」
　なのに俺より先に…とぶつぶつ呟くポルコを横目に、我が兄ながら愛されてるなあと苦笑いをした。

　夜も更け仕事も終わり、スコーピオンが事務所に行くと、ポルコと兄が談笑しながらプリンを食べているところに遭遇した。
「あれま、ちゃんと仲直りできたんですね」
「当たり前だろ？ガキじゃねーんだし」
「お前のぶんも買ってきたから、冷蔵庫見てみ」
　言われた通りの冷蔵庫を開くと、プリンが残り六つ。
「随分沢山買ったんですね」
「どーせなら全員分買ってきちまおうと思ってよ」
「兄貴にしては気が利くじゃないですか」
　冷蔵庫からプリンを一つ取り出しふたを剥がす。隣に備えついた小さいキッチンの引きだしを開け、自分の名前が書いてある小さなスプーンを取り出して、その柔らかい身にスプーンを突き立てた。
　一口、口に運ぶと、カスタードの甘い香りが鼻腔を抜け、まろやかな舌触りと控えめな甘さが口内を満たす。
「おいしいですね」
「だろ？ゼルも美味しいって」
「なんでお前が報告するんだよ」
　わちゃわちゃと騒ぐ二人をほほえましく思うと同時に、右手に持ったこれは要らなかったな。と、思い、自室に持ち帰ろうと踵を返した。
「ん？お前何持ってんの？」
「ああ、これ、君らが仲直りできなかった時用に買ってきたケーキ」
「マジで！食べる食べる！」
「俺、兄貴とは違って気が利かないから二人分しかないんですよね、今、こっそり食べてくれるんだったらあげますよ」
「今日は甘い物いっぱい食えていい日だなあ」
「な！あ、チーズケーキだってゼル好きなやつじゃん」
　ケーキとプリンだけでよくもまあここまで騒げるものだ。少しあきれ返りつつも、そんな餓鬼っぽい二人が好きで、喧嘩してほしくない自分も相当甘い奴だと、スコーピオンは思ったのだった。
　そしてケーキの事がクローリクにばれて、頬っぺたを抓られるのはまた別の話。

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今回書いたキャラの簡易まとめ

＊スコーピオン
仕事熱心でまじめなお兄さん。
エーゼルとは双子で、スコーピオンが弟。
好きなお菓子はガレット。

＊エーゼル
ヤル気無い感じのお兄さん。
スコーピオンの双子の兄。
好きなお菓子はチーズケーキ。

＊ポルコ
食いしん坊なお兄さん。頭が悪くてノリが良い。おバカ。
エーゼルと、特に仲良し。
好きなお菓子はプリン。

＊クローリク
セブンズの社長。個性豊かなみんなをまとめる不思議ちゃん系お姉さん。
背が低く童顔な為、年齢より若く見られがち。
好きなお菓子はみたらし団子